●8話

 ・・第一章・・


(・・・河田凉。ここを、何故選んだ・・。)
 男子校は、異性がいないゆえに、独特の雰囲気を持つ時がある。
 女子の視線がないせいで、ボサボサの髪に、ヒゲを伸ばしたままで登校したり、風呂に何日も入らない輩も当たり前のように何人もいる。
 一芸に秀でている学生が多いのも、私学にありがちな特色だろう。
 当然スポーツは盛んだ。スポーツに熱中して、男同志の友情なんてのに、熱くなる所も、ここのいい所だった。
 男が男に惚れるというか、同性から見ても”男気”のある者は、崇拝の視線を送られる。
 そんな魅力的な生徒達が集まる”場”には、当然のように勘違い野郎が紛れ込む場合があるのも事実だった。
 ごく少数派ではあるものの、竹林は幼い頃から、そんな奴らの視線を浴び続けていたのだ。
 見た目だけでも、竹林のような容貌は、極めてよろしくない。
 竹林自身、己に構っているわけではないものの、土台が良すぎた。
 自分ではそう思わないのだが、もともと中性的な雰囲気をたずさえているらしい。
 いろいろ嫌な目にもあってきた。
 だからこそ、体を鍛えて誰にも負けないくらいの、気構えを持つことができたし、今では周囲もおいそれとも竹林の容姿について、チャチャをいれる者はいなかった。
 一度タチの悪い先輩数名から乱暴されたことがあって、その後に、思いっきり仕返しをしてやったのである。
 全員が病院送りで、そのうちの一人は片目をつぶすほどになってしまった。
 それからだ。畏怖の視線を向けられるようになって、竹林の周囲は静かになった。
 河田凉の方は、おそらく多分、・・・絶対といっていい確率で、体を鍛えて周囲を打ち負かすほどの、必要にはかられなかったのだろう。
 男にしては柔らかな体つきを見て、腕立て伏せ300回なんてしている姿は考えられない。
(共学だったんだろうな。お前の事だ。めちゃくちゃもてただろうに・・。)
 そんな事を考えながら、竹林はため息をついて河田の髪の毛を何気に指でもてあそび、想像通り柔らかな感触に満足して、気が付いたら彼の顔に近付きすぎてしまっていた。
 真近に柔らかそうな肌を目のあたりにして、ついついばむように頬にキスをしてしまう。
(!!!!)
 ふいにその事実に気がついた竹林は、自分でびっくりしてしまった。
(俺!今こいつに何をしたんだ!)
 あわてて彼から離れて、自分のベットに戻って、深呼吸する。
(・・・・勘違い野郎と一緒じゃないか。)
 河田凉は男だ。
(愛らしい。)なんて思っているなんて河田が知ったら、烈火の如く怒るだろう。
 何よりも、自分自身がそうだったのだから。
 ”野郎”に妙な行動を取ってしまった自分に自己嫌悪。
(何て奴と同室になってしまったんだ・・。)
 横になった竹林は自らの運命を恨むような気持で、目を閉じたのだった。


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