●7話

 ・・第一章・・



 美咲が、そんなことを考えている間の竹林の方はというと、彼も明日の用意をしていた。
 だが、彼の場合は、用意がすむと、後はすることがない。
 ベットに横になりぼんやりして、見るでもない雑誌をペラペラめくったりしていたのだった。
 彼からみても、河田凉の様子はカーテンを引いてしまっていたので、よくわからなかった。
 しばらくゴソゴソと物音をさせていたが、そのうち静かになる。
 ほどなく彼から寝息が聞こえてきた。
 竹林は寝付けない。
 しばらくたって、余計目が冴えてくる。仕方がないので、起き上がった。
 カーテンの隙間からのぞくと、彼はすっかり眠っているようだった。それを確認すると、竹林は凉のベットに近づいて端に腰かけてゆく。
 安らかな寝息をぼんやり見つめていると、ついつい
(こいつは、男のくせに、なんでこんなに愛らしいんだ・・。)
 と思ってしまう。
 初めて部屋に入ってきた時の彼の様子。
 柔らかい羽毛のような存在感だと思った。
 色素の薄いフワフワな髪に、二重の優しげな瞳。ふっくらとした頬は少女のような面ざしだ。
 あっけにとられて動きが止まったほど。
 けれども、竹林はいつも同室の奴が来たときには、舐められないためにも、己の力量を相手に知らしめる儀式を行ったのだった。
 力いっぱいの握手を。
 彼に対しては、そんな事しなくても、力技では負けるわけないとは思った。果たして結果は思った通りだった。
「痛いってば。」
 少女のようにか細い声で訴えて、少し涙を浮かべる瞳を見つめた時、竹林の中で、初めて”タガ”のようなものがはじけ飛んだ。
 気がつくと、榛を抱いて、額をつけていたのだ。
 近くによると、ほのかにいい香りがした。
 そこからだ。
 竹林は、河田凉に対して、おかしな具合になってしまったのは。
 あまり他人に干渉することのない自分が、食事はどう?だの。風呂は入るのか?など、いちいち声をかけて、世話を焼いている自分がいるのだった。
 聞かれてもいないのに、この学校は小学校から通っているだの。いつから寮に入っていただの説明したり・・・。
 そして、銭湯に向かった先の脱衣所で、こんな環境が慣れないのだろう。
 おずおずと河田が服を脱いだ時、ほっそりとした、あまりに儚げな裸体に目が離せなくなった。
 思わず、女湯に入れ。と、言いたくなったくらい。
 もちろん彼は男だ。
 胸の膨らみは皆無だし、下半身には付くものはちゃんと付いている。
 なのに、触れたら柔らかな感触が伝わってきそうな体付きは、女っけのない男たちには目の毒だろう。
 すでに河田の全身を、舐めるように見つめている高校の先輩方の視線にも、竹林はいち早く気付いていた。
 タオルを前抱きにしてたたずむ河田は、そんな視線に全く気付いていないらしい。
「俺からなるたけ離れずにいろよ。」
(学校内にも、個人用シャワーなんて、なかったよな・・。)
 あの時は、思いっきり脱力した。一刻も早く入浴をすまそうと思って、サッサと、浴場に入っていったのだった。

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