●51話
・・第二章・・
「今日の見学の時に、竹林。試合があるって言っていたよね。」
騒がしいイベントは終わり、夕食も、入浴もすませて、寮に帰った後は、寝るだけだ。
机に向って黙々と勉学に励む竹林の横顔を、ベットの上からぼんやり見ていた美咲は、ふいに昼間に彼が言った言葉を思い出して言っていた。
竹林は、スッとノートからペンを離して、美咲を見つめてくる瞳は、愉快気に踊っている。
「・・・あぁ。キックボクシングの試合なんだ。殴り合いの喧嘩みたいなのは、河田は嫌いなのかと思って、あえて言わなかったんだ。
試合、見に来てくれるのか?」
期待のこもったまなざしを向けられて、照れてしまう美咲だったが、コクンとうなずき、
「いつなの?」
と、聞くと、
「5月の4日。ゴールデンウィークの真っ最中。」
と短い応え。
「5月4日だったら、そんなにないじゃん。言ってくれれば、行ったのに・・。
篠山と、青木も来るの?」
「一応、来る予定にはなっていた筈だ。あまり強くはないからな。期待しないでくれよ。」
「別に期待してないって・・。でも、なんだか楽しみ〜。ボクシングの試合なんて、初めてだもの。」
言いながら、美咲の心は浮きたっていた。
(竹林に、へンプを贈ろう・・。)
心の中でつぶやく。
ヘンプは、安全祈願や必勝祈願などの思いを込めて編み、相手に渡す方法もあった。
田中美咲だった時に、友達が好きな人に自分で編んだヘンプを、付き合っている彼の、試合の必勝祈願に渡した瞬間を見ているのだ。
幸せそうな二人を見て、いつか自分も特定の彼の渡せる時が来るといいなあ。なんて思った事を思い出す。
竹林は、ヘンプなんかいらない。なんて言うかも知れなかったが、美咲自身が竹林のために、ヘンプを編んでみたいと思った。
(大至急、編んでみよう・・・。簡単な物だったら、いくらもしないうちに、出来上がる筈だから。)
そう思ってみると、のんびりベットの上で横になってはいられない。
編み糸ばかりが入っている箱を取り出して、どの色あいの糸にしようか。と、選び出すのだった。
いきなり立ち上がって、箱をゴソゴソやりだす美咲の姿を、不思議そうに見ていた竹林だったが、何も言わない。再びペンを握って、勉強の続きをし始める。
(竹林のイメージって、青と黒だよね〜。)
みるみる様々な形が美咲の頭の中で踊る。
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