●52話
・・第二章・・
(玉が足りないわ。明日、紐と玉を買出しに行こう。)
そう心の中でつぶやいて、紙に簡単なデッサンをして、さらにイメージを形にする。
後はもう、することがないので、
「先に寝るよ。お休み〜。」
と、竹林に声をかけて、ぶ厚いカーテンで、二人の間を遮ってゆくのだった。
部屋の中央の電気はすでに消しているので、遮光性のあるカーテンをひくと、眠るのに不足ない程度の明るさになる。
毎晩結構遅くまで、卓上の電灯をつけて勉強する彼に、毎晩付き合っていると、寝不足になってしまう。それと同時に、二人っきりの夜が、妙な具合にならないためもあった。
決まって美咲は、カーテンを防波堤代わりに、ひいて眠るようにしていたのだった。
「あぁ。お休み。」
カーテンの向こう側から、短い返事が返ってくる。
次の日の放課後、早速は手芸屋に足を運んで、目当ての物を見つけて帰ってきた。
元生徒会室には寄らない。
試合の必勝祈願と、彼への感謝の気持ち。それと、美咲自身の想いを込めて編むのに、外の雑音を入れたくないからだった。
竹林はもちろん、部活に顔を出しているのだろう。彼が寮にいない間に、できる限り進めたかった。
早速今日買った小物達を並べ、糸を取り出し編んでゆく。
美咲が考えたデッサンは、黒の芯糸に青の糸の中に、黒と青のマーブル模様の玉を幾重にも編みこんで、手首に巻くタイプのものだった。
玉を固定するのに、少しのコツがいるので、ちょっとはややこしいのだが、田中美咲の時と違って、指が滑らかに動くので、驚くほど順調に進む。
順調に進みすぎて、編む順番を間違えて、やり直し。になったりした。気がつくと、夕食の時間になっていて、美咲は慌てて糸を直しこむ。
なぜだか、出来上がるまで、竹林の目にしたくなかったのだ。
間髪入れずに
「ただいま〜。お前また、手芸していたのか?」
机に座ってゴソゴソしていた美咲を目にとめて、竹林が口を挟む。
「そうだよ。悪い?」
言い返す美咲に、竹林は
「悪かない。・・・あぁ〜それより腹が減った〜飯食いに行こうぜ。」
机にカバン類をドサッと置いて、美咲の腕をとった。
「おかえり・・。は、言ってくれないのか?」
間近に彼の瞳。
「おかえ・り。」
美咲が言うか言わないうちに、顔が近づいてきて、軽く唇が重なった。
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