●5話

 ・・第一章・・



 入浴をすませた二人は、自分の部屋に戻ると、美咲は荷物の整理の続きをする。竹林もゴソゴソしていたが、カーテンで仕切っているので、何をしているかまではわからない。
 美咲の私物は、たいしてないので、ほどなくして終わった。
 後は明日の入学式準備をするだけだ。
 新しい制服を箱から取り出し、フックに掛けた。
 紺色をベースにしたチェック柄のブレザータイプのそれは、明日からの新生活を象徴していて、見れば見るほど、美咲を誇らしい気分にさせてくれる。
 ここの高校は学力のレベルも高く、元の美咲のレベルでは、到底入れない学校だった。
(これも、凉の記憶のおかげ・・。)
 美咲は心の中でつぶやいて、瞳を閉じる。
 意識を彼方へ意識を沈ませると、イメージとしてある扉のようなものが浮かび上がってくる。
 これのおかげなのだ。
 美咲がこの扉を、凉の『学問の扉』とよんでいた。
 虚空に浮かび上がる大振りの木製の扉は、百合の図柄のステンドグラスが埋め込んである。河田邸にある扉を彷彿とさせてくれるものだったが、初めて見た時は、度肝を抜かれた。
 得体のしれないそれは、美咲を恐怖におちいらせたものだが、意を決して中に入ってみると、思ったよりは狭い。
 たくさんの書物がおいてある。書庫のような形をもっていたのだ。
 膨大な数の本を開くと、凉が学んできた学問や教養本らしい。
 指で追って文字をたどると、恐ろしい勢いで、それらが入ってくる。
 そんな現象に気づいた時は、さらにびっくりした。


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