●48話
・・第二章・・
と、低い声でささやくのだが、志乃に聞こえない訳がない。彼女はキッと瞳を釣り上げて怒鳴った。
「昇!・・・見損なわないで。
相手がいて、しかもアツアツな様子を見せつけられて、それでもその人を、好きになるなんて、わけないじゃない。」
「そんなもの分からないぞ。」
「そもそも、なんであなたに私の交友関係まで、指図されなきゃならないの?
・・・この制服だってそうじゃない。膝上はダメだとか、制服のサイズも大きめなのを、勝手に購入したりとか・・。
何にも言わなかったけど、これでも我慢して着てるんだよ!
怒り心頭の志乃の顔を見て、美咲は竹林と思わず顔を見合わせてしまう。
さりげない一言が、とんでもない痴話喧嘩に発展してしまったようだ。
「・・まあまあ。すまなかった。俺の考えが至らなかったよ。河田はこれでも男なんだから・・・俺も誤解を招くような行動を、勧めるべきじゃなかった。」
「僕も、そう思うよ。竹林。さっきの発言は失言だ。」
(篠山の気持ちを考えたら、とてもじゃないけど、一緒に行動できないよ。)
さすがに、後の言葉は口には出せない。
「志乃さん。すまなかった。」
軽く頭を下げる竹林の姿に、志乃は怒りの矛先を、宙ぶらりんにさせてしまったようだ。
なんともいえない表情になる彼女の肩を、秋月菜穂がポンと叩く。
「・・・そろそろお昼休憩終わりだよ。トイレとか行っとかない?」
菜穂のさりげない誘いに、志乃はコクンとうなずいた。
「アオイも行く?」
志乃が寺崎アオイに問いかけると、青木の側に座っていた彼女は、あわてて何度もコクンとうなずき、勢いよく立ちあがった。
「・・じゃあ。私達、このまま集合場所に戻るから。」
志乃はそっけない言葉を残して、三人はその場を離れていった。
残された三人は、そんな彼女達の後姿を見送り、ふいに篠山が竹林を見据え、
「・・なんであんな事言ったんだ。」
と、つぶやくと、竹林は手を合わせて謝った。
「すまん。河田が男だって事、つい失念してたんだ。」
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