●47話

 ・・第二章・・


耳に当たる竹林の制服も、温かい。
青木や、篠山達の会話を聞くでもなく、耳にしながらの、この時間は、とても幸せだった。
幸せの気分を満喫して、ウトウトしかかっていると、何気に視線を感じてハッとなる。
視線の先を追うと、志乃だった。
瞳をキラキラ輝かせて、いきなり美咲の手を握ると
「河田くん。私、応援するわ。・・・がんばってね。」
なんて、言ってくるのである。
篠山が、眉をひそめる。サッと志乃の手を取り、
「いらない事言うな。」
と、かみつくように責める様子は、なんだか素直じゃない。
「なんでだよ〜。私が河田君達の事を応援して、どこが悪いのよ。」
ふて腐れた顔をして言い返すも、
「そういった所が、いらない事なんだ。」
声を荒げる篠山なのだ。
美咲には、他人ばかりを気にかける許嫁に、いらだって仕方がない風に見える。思わずクスクス笑う美咲に、篠山は首をかしげて
「河田も、そこは笑う所じゃないだろう。」
と言ってくる。
「ゴメン。ゴメン。」
と、美咲は謝りながらも、笑みは止められない。篠山は脱力感に襲われたようで、ため息をつく。
いつでも落ち着いて、冷静でいる篠山の、珍しい顔だった。
「河田君。私、困った事があったら、何でも相談乗るから。・・・昇に連絡先、聞いてくれたらいいわ。ねえ。昇。」
志乃は、篠山の気持ちにはお構いなしだ。美咲にニッコリ笑いかける彼女の表情は、天真爛漫といった言葉が、ピッタリだった。
「志乃さん・・・よかったら、こいつと共に、外出してやってくれよ。河田は、寮に籠りっきりな所があってな。俺が一緒に連れて行けたらいいんだが、試合が近づいてきていて、そうもいかないんだ。」
ほおっておいたら、ずっと寮の中で手芸三昧なんだぜ。
 なんて、竹林までもが口を挟むものだから、それこそ篠山は酸欠を起こしたように、口をパクパクさせて、
「竹林、それはお断りさせてもらうぞ。・・・志乃は、何も知らないんだ。
・・・間違って惚れられでもしたら・・。」





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