●45話

 ・・第二章・・

「・・・そうなんだ・・。」
答えながら、すでに逃げ腰の美咲に、秋月菜穂と自己紹介した女の子は、少し傷ついた顔をした。けれど、それは一瞬で、
「という事だから、気をつけてね。河田くん、可愛いから、いろんな女の子からアプローチされると思うから、言葉に気をつけてね。誤解されないように・・・。」
と、アドバイスのコメントを吐く。
「…わざわざありがとう。」
美咲が礼を言うと、菜穂はにっこり笑って、
「じゃあ、せっかくの鉄の精製の様子を見学しましょうか。」
促してくるのだった。
「・・・そうだね。」
答える美咲に、コクリとうなずくと、それからは、さえずるような言葉は彼女の口からは出てこなくなった。
静かに横を歩く菜穂のおかげで、真っ赤に熱せられた鉄の棒が流される現場を、『ほう。』と気のすむまでゆったり見学できたのだった。
あたり前だが、聖華女学院の女子学生は、いろんなタイプがいる。
けれどもここに来る前に、心配したような“感情”がわき上がってこないのを、美咲は心の内で、ホッとしたものを、感じでいた。
菜穂と共に
「ウワー。すごい速さで伸びてゆくよ。」
と、鉄があっという間に冷めて、形が形成される様を見て、お互い驚きの声をあげていると、単純に楽しかった。
いい意味で気が抜けて、周囲に目を配る余裕ができたものだから、つい“あるもの”が目に入ってしまったのだ
意識的に、視線が向かないようにしていたのに・・。竹林の姿を・・・。
最初の頃、彼の隣にいた女子は、もうちょっと背が低かったはずだった。
リラックスしすぎて、一瞬でもうっかり視界に彼の姿を入れてしまい、あわてて視線をはずしたものの、すでに遅かった。
一瞬にして、目に映った映像は、美咲の脳裏に焼き付いている。
竹林の隣には、モデル体型のすごい美少女が並んでいた。
二人並ぶと、それこそ絵になるどころではない。
竹林も、美少女も、とても楽しそうだった。
二人の世界は、誰も立ち入ることのできないオーラで包まれている感すら、美咲には感じられた。
竹林の隣に立つのは、彼女のような人なのだ。
一気に美咲の胸が軋む。
(あーぁ。早速、私。イヤな奴になっているわ・・。)
 どん底の気分で落ち込む美咲の様子が、隣にいた菜穂にも伝わったらしい。
「どうしたの?気分悪いの?」
 心配げに声をかけてくる彼女に、美咲は引きつった笑みを浮かべて
「大丈夫。・・・なんともないから。」
 と、答えるのが精一杯だった。
菜穂に、生徒達だけの今日のイベントの伝統を聞いておいてよかった。と、この時、しみじみ思った。
(今日だけよ。今日だけ。イヤな気分になるのは・・。)
 竹林と、美少女が意気投合して、これからも会うことになったら、どうしよう。なんて、考える必要がないのだ・・・。
 不安におののく感情に、美咲は何度も言い聞かせる。
 竹林は、そんな事しない・・・。


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