●44話

 ・・第二章・・


『篠山の許嫁が通っている女子高だったよな。・・・同級生の寺崎アオイちゃんは来るかな〜。』
 と。青木は夢見る視線で、天井を見上げたりしていたくらいだった。
寺崎・・とは、美咲の隣にいた彼女の事なのだろう。
「ペアを変わろうか?」
 ニヤニヤ顔で提案すると、青木はコクン。とうなずき、
「すまない。恩にきるよ。」
 なんて、素直に言ってくるのである。あまりに真摯な表情に、茶化す気分なんて吹き飛んでしまう。
 早速、列に戻って交替する。
 青木がアオイの側に来た時、彼女の瞳が、パッと輝いたのだ。
 一気にアオイの雰囲気が変わる。匂い立つような色気が漂って・・・一瞬にして、氷の顔に戻ってしまった。
 ぎごちない笑顔を浮かべて、一言二言、青木が彼女に語りかけている。
 無論、アオイの反応は固い。
「・・・また、あの二人。ペアを組んだのね。
毎回あぁやって、ほとんど話もせずに、その場で別れちゃうのよ。」
 元、青木のペアだった女子の声は、朗らかだ。
丸顔のソバカスが頬に散って、声の調子そのままの彼女は、美咲の姿を認めて、目をクルリと回した。
「きゃあ、すっごい可愛いぃー!!初顔じゃない。名前なんて言うの?私、秋月奈緒っていうんだけどー。」
 と、飛び上がらんばかりに喜んで自己紹介するのだ。
「・・・河田凉・・です・。」
 さっきの唇グロスの女子といい、この子といい、美咲の姿を見てテンションが上がりすぎな感覚は、思わず後ずさりしたくなる程だ。
「かわ・・だ・・りょ・う・・。」
 頭の中に、インプットしているのだろう。一言一言、噛んで含むように言ってうなづくと、
「他校から入って来た子は、みんな戸惑うんだけど、友達から聞いてない?この共同のイベントの特徴を・・・。」
 と、聞いてくる。
「・・・・知らない・・けど。」
 ポツリとつぶやく美咲に、彼女は口を開けた。
「あのね・・・。両校で行われる、今日のような日なんだけどね。
かつての先輩方が作った、“粋な伝統”のようなものがあるの。
共同のイベントがある日だけ、例え婚約者がいる身分でも、一日だけのお付き合いが許される間柄になれる、夢の日を設けたのよ。
ちょっとしたルールがあってね。一人に何人も群がったらダメなの。
きちんと一列ずつ整列して、・・・例えばイベントが見学なら、ちゃんと見学しながらお話しするのがルール。ほら。列が乱れたりしてないでしょ?」
彼女の口はよく回る。コクンとうなずく美咲に、彼女はうなづいて、
「もちろん、学校側には内緒よ。そんな事認められるわけないから。代々の生徒達の間だけの取り決めだから・・・このことは絶対、外には漏らしちゃダメなの・・。」
その内容が、もし本当にそうならば、一日だけですまない二人も出てくるだろう。いろいろ問題が起こっているはずの内容だった。
キラキラ光る彼女の話ぶりは、まるでお伽話の一部を、語りかけているようにすら、感じられる雰囲気をもっていた。


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