●43話

 ・・第二章・・


固まる美咲に、ケラケラ笑った彼女は、
「なに固まってんのよ。みんなにバラさないから安心して。そういった輩が香徳にはいるってのは、周知の事実だから。
 無駄な事するのは主義じゃないから、聞いてみただけぇー。」
 言いながら、もう視線は美咲の二つ後ろを歩く木田をチェックしている。
 木田の隣にいる女子は、枯れ枝のようにひょろりと痩せて魅力がない。木田の視線は、鉄の様子もペアを組んだ女生徒にも向かっていなかった。
美咲の隣を歩く彼女の瞳が、キラリと光る。
各自でとるトイレ休憩に、女生徒二人で姿を消した後、美咲の隣にやってきたのは、枯れ枝少女だった。
唇グロスの女生徒は、木田の隣を陣取っている。
枯れ枝少女がいた時とまるで違う。有頂天な表情を見せ出す木田を、しみじみ見つめてしまった。
(なんだか凄い・。)
 よく見れば、先生が決めたペアが、少しずつ変わってきている。
(まるで合同コンパみたい・・。)
 ますます共同見学の意義がわからない。
「・・・ごめんね。言ってくれたら、すぐにでも他の子と変わるから・・。」
 ふいに声をかけられてハッとなる。気弱そうな瞳が美咲を見上げていた。
「え?」
 美咲が問いかけると、枯れ枝少女はスーと視線を外して気配を消してしまう。
 魅力がないのではない。確かに女の子にしては、痩せすぎな感はあったが、病的なまでに痩せてはいなかった。
心持ちシャープな顎に、刈り込まれた黒い髪からのぞく細いうなじや、華奢な二の腕。
小さな顔の中のパーツの一つ一つは繊細で、濃いまつ毛に彩られた瞳の虹彩は真っ黒だ。小さな薄い唇などを合わせてみてみると、まるでよくできた人形のようだった。
むしろコケティッシュな色気さえ漂っているのに、それでも枯れ枝を連想してしまうのは、荒んだ瞳の色だった。ぎごちない彼女のしぐさかも知れなかった。
(なんなのこの子〜・・。)
そんな瞳をする彼女に、がぜん興味をもってしまった美咲なのだが、話しかけようとしても、冷たい拒絶の姿勢に阻まれて、どうしようもない。
何気に視線を感じて振り向くと、視線の送り主はなんと青木だった。ものすごい表情で、美咲と枯れ枝少女二人を見つめている。
青木と視線が合うと、即座にあごをしゃくって、列から離れるように促してくるので、美咲は(何?)と思いながらも、彼の指示に従って、列から離れた。
「・・・いつの間に、寺崎の横にいるんだよ。」
コソッと耳打ちしてくるので、ピンとくる。
今朝、彼は竹林に言っていたのだ。


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