●42話

 ・・第二章・・


「あ・・お・・きぃ〜。助けてー。」
 美咲が竹林の腕ごしに訴えるも、チラリと同情めいた視線を向けてくるのみ。
 何も言ってくれない。それどころか、
「聖華女学院っていったら、篠山の許嫁が通っている女子高だったよな。・・・同級生の寺崎アオイちゃんは来るかな〜。」
 と、夢見る視線で天井を見上げたりする。
「来るんじゃないか?」
 そっけない答えをだす竹林も、篠山も歩く速度が速い。
 美咲の首への拘束を、さり気なく離した竹林は、今度は腰に手を回して歩きだす。
 おかげで彼らのスピードに付いて来れるのはいいのだが、ぴったりと、それも公衆の面前で、体をくっつけた状態なのだ。
 なんだか周囲の視線を感じるような、気がするのは気のせいだろうか。
 こわばった顔付きのままで食堂に着く。美咲の腰に回していた手を素早く離した竹林はあっという間に並んで、朝食を受け取って行く。
 美咲も後に続いた。
 後はベルトコンベアーに並んだ商品のように、決まった朝の喧噪に呑まれてゆくのだった・・。
 特に今日は男子諸君が待ちに待った、女子と共に過ごせる社会見学の一日が始まるのだ。
 テンションの高い男子に紛れて、今日の事で気分がすぐれないのは、美咲一人のようだった。



 各学校から出発して、現地に辿りついてから、クラス単位で一緒に工場の見学となる。
 一列ずつ並んで、鉄の加工の工程の説明を受けながら見学するのだが、ほとんどの者は、まともに見ていない。
 隣で歩く女子が、好みの女の子だった男子生徒は、舞い上がってなんとか彼女の興味を引こうと必死になっているし、そうでなかった生徒でも、すぐそばにある異性の姿は、彼らを緊張させるものらしい。
 共同で、社会見学の意味がどこにあるのか、分からないイベント?になってしまっていた。
「・・・河田君って、そんな感じ?」
 ふいに問いかけられて、ハッとなる。
 美咲の隣を歩く、女生徒からの問いだった。びっくりするくらい短いスカートの裾から、ムチッ。という表現がぴったりの素足がのぞく。
 綺麗な髪を栗色に染めて、グロスをたっぷり塗り、濡れて光る唇ばかりが目につく女の子だった。
 肉感的な厚めの唇は、篠山の婚約者の佐竹志乃を連想させた。
 志乃の唇は、美咲が見ても、ついついばんでみたくなるような柔らかな触感を連想させたが、目の前にいる少女の唇は、ギトギトしていてバタ臭い。
「・・・そんな感じって、変な感じ・・する?」
 美咲にしてみれば、工場内の灼熱の鉄の塊なんて、見る機会がないので、そっちに集中したい所だった。
 隣の彼女がいろいろ話してくるので、そうもいかない。無視するわけもいかなくて、適当に相槌うっていたのが、ばれてしまったのかも知れなかった。
 少しドキっとして答える美咲に、彼女は、ククッと笑って、
「やだぁ。気づいてないの?・・・あなた。男、好きでしょ。」
 爆弾発言・・・だった。


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