●41話
・・第二章・・
美咲は自然に目を閉じた。
唇に柔らかい、彼の唇の感覚。意志をもったそれは、少し開いた美咲の唇の間にも分け入ってくる・・・。
と思った美咲は、サッと身を引いた。腰に当てられた手をさりげなく取って、時計を見る。
「朝ごはんの時間だよ。」
と、差して促すと、彼も時間をチラリと確認すると、あっさり体を離して、
「本当だ。行こうか。」
と、答えて扉に向かってゆくのだった。そんな竹林の後ろ姿を見つめて、美咲は人知れずため息をつく。
竹林は美咲の外見上の問題を、ほとんどというか、全く気にならないようだった。
そもそも初めて会った時から、同じ男としての扱いは受けていなかったのだ。
キスを何度か受け入れる間に、時には彼の手が、美咲の腰や肩や太もも辺りを、撫でるようなしぐさを見せる時があった。戸惑いがちなしぐさと瞳は、キス以上のものを求めていた。美咲だって彼に触れられた部分が熱を持ち、息があがった。
さらに身を寄せたくなる誘惑に駆られる一方、ひどく戸惑うものを感じていた。
河田凉の体を使っているので、少なからずもその影響もあるのかもしれない。
が、それ以上に、続けて行為を行ったら、カウントダウンの数字が、一気に『0』になってしまうかも知れないのだ。
さすがに恐怖が、湧きあがってくるのだった。
だから、いつも彼の体から身を離すのは、美咲の方が先だった。
竹林は、そんな時は気を悪くする風でもなく、それ以上は迫ってくることはなかった。美咲の気持ちを大切に思ってくれる仕草が見えて、美咲は申し訳ないような、後味の悪い気持ちになるのだった。
今朝の場合は、本当に時間がなかったので、後味が悪い気分にはならない。
サッサとあるく竹林の後ろ姿を、ぼんやり見ながら歩いていると、
「あぁ腹減った・・。」
と言って、お腹をポンと叩く。美咲はクスッと笑ってしまった。
「毎朝言ってる!。」
と、コメントすると、チラリと見返してきて、
「当たり前だろ。キツイ朝錬をしてきてんだ。」
と返答を返してくる。間髪いれずに美咲の頭をパコンと叩き、
「お前もちょっとは鍛えろ!」
言って、美咲の首をむんずと捕まえると、わきにとらえてそのまま進むのだ。
「ちょっちょっとー。ぐ・・苦しい。」
「早く進め。のんびりしてると、おわずけくらっちまう。」
竹林の冗談は、本気なんだか、そうでないのか。解りかねるのが多い。この場合もそうだった。
一刻も早く行かなければ、本当におわずけくらうくらいの勢いで、食堂に向かうのだ。
「・・・相変わらず、仲のよろしいことで・・。」
朝から疲れる物を見させられる。とばかりに、合流した青木がつぶやいてくる。
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