●40話

 ・・第二章・・


 社会見学に行く朝を迎えた美咲は、どんよりとした気分のままで、布団の中にもぐっていた。
 そろそろ起きないといけない時間なのに、全然ベットから離れる気にはなれない。
(女の子達を見て、イヤな気分になるんだろうなぁ・・。)
 と、思うのが一つ。
 あと一つが、多分竹林に群がるだろう女子生徒達を、見つめる彼のニヤついた表情が思い浮かぶからだった。
 竹林から、話を聞いた時は、『自分以外の女の子に、興味を持ってもらった方がいい。』なんて、格好つけたことを思ったものの、いざその日になってみると、単純にイヤだった。
(私って最低・・。)
 そんな自分に、さらに沈み込んでしまう。
 ウダウダそんな事考えて、まどろんでいると、カーテンがサーと引かれる音がしてハッとなる。
(何?)
 思う間に、ドサッとベットの端に腰掛ける気配がして、
「いつまで寝ているんだよ・・。」
 竹林の声と共に、背後からスッポリ抱きとめられてしまった。
「寝てないって!今、起きようとしていたとこ!」
 しがらみから慌てて離れ、ベットから起き上がる。眠気も吹っ飛んでしまう。
 毎朝、朝錬を済ませてくる竹林は、美咲が起きる頃にはいつも、シャキンとした顔をしていた。
 今日はいつにも増して、絶好調のようだった。
 ニヤニヤ顔の竹林の視線を浴びながらも、美咲は彼から隠れるようにして、制服に着替えると、
「ちょっとトイレ。」
 と、わざわざ断って、ソサクサと部屋を出る。
 行く前から嫉妬で暗い気分の今の自分は、きっとひどい顔をしているだろう。
 用事をすませて戻ってきた美咲は、部屋で待っている竹林と視線が合う。
「おはよう。」
 わざとらしいくらい、ニッコリ笑って朝のあいさつ。
「おはよう。」
 答えた彼は手をあげた。
「こっちおいでよ。」
 その一言に毎度、呪縛がかかっているのか。と思うのだ。
 美咲はフラフラと彼の側に寄ってゆく。手が届くくらいの距離に近づくと、待ちきれないのか、竹林がサッと手を出してきて、美咲の腕をとった。
 抱きとめられる。
 すぐそばにある竹林の瞳は、独特の熱を持っていた。美咲の姿を映し出している。
 そんな視線を浴びただけで、カッと顔が火照ってくる。
 ゆったりとしたしぐさで、さらに彼の顔が近付いてきて・・・。



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