●39話

 ・・第二章・・


香徳大付属高校には、姉妹校というか兄妹校というべき学校がある。
ちょっとしたイベントを、共同で行ったりするのが、恒例としてあるらしい。
いつものように、教室に入った美咲は、教室内の雰囲気が、踊るように明るい。
ソワソワしだしているのを、不思議に思った。
竹林に聞くと、あさっての水曜日に出かける社会見学の詳細が、掲示板に張り出されているらしいのだ。
「香徳と兄妹校の、聖華女学院の女の子たちと、鉄の加工工場の社会見学に行くんだ。」
答える竹林の顔もニヤついている。美咲はなぜかムッとするのを感じた。
「あぁ。それでみんな、浮足立っているんだ〜。」
美咲の声のトーンが変わっているのに、彼は気づかない。
「年に数回しかない、学校主催のイベントなんだ。“生”の女子高生を拝める数少ないチャンスなんだよ。」
「興味あるんだ・・竹林・・。」
目を細めて、鋭い目つきになる美咲に、竹林は首をかしげた。
「何がだ。」
と白々しく聞いてくるので、美咲はさらに意地の悪い気持ちなる。
「正直に言いなよ。健全な男子の感情を、隠す必要なんかないじゃないか。」
ケラケラ笑って冗談めかした言い方をしながらも、瞳の奥底では笑っていなかった。
(私が、いなくなっても、幸せになってほしい・・・。)
チクチクとした嫉妬の炎に、焼かれるとしても・・・。他の女の子に興味を持っていてくれる竹林を見る方が、ある意味安心だった。
美咲が彼のそばにいられるのは、今だけ。カウントされる間だけなのだから・・・。
彼と一緒に未来を見ることは出来ない。
美咲は、数字がドンドン減ってゆく生活を、選んでいるのだから・・・。
(今だけは、この人と共に生きてもいいよね・・・おかしな状態の私でも、そばにいるくらいは許してもらえるよね・・。)
天に向かって訴えかけて、誰に向かってこんな事言っているのかと思う。
キリスト教信者なら(神様お赦しください)なのだろうが、美咲は信者ではない。
「可愛い子いると思う?」
チョイチョイと彼の肩を突いてつぶやくと、竹林の瞳がスーと眇められた。  
「何度も言わせるなよ。俺は女に興味がない。・・・誤解のないように言っておくが、当然男もだ。」
(何言ってるのぉーー??)
彼のコメントは、意味が分からない。
目を白黒させて、混乱した顔をした美咲を見て、竹林はクスッと笑う。
「妙な心配するなよ。俺は、お前一筋だから・・。」
言って、さすがに自分自身で照れが出たらしい。さりげない風に、美咲の側を離れて行ってしまった。
「・・・・。」
一人残された美咲も、火照った頬を冷ますために外気に触れる場所に向かうのだった。




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