●38話

 ・・第二章・・


美咲が心配した割に、篠山と、志乃の関係はそんなに悪い訳ではないらしい。
三人で、パッチワークの品物や、志乃が話したあみぐるみの数々を肴に、話が盛り上がった訳なのだが、実は乱暴な物言いをする彼の調子こそ、本来の彼の姿なのだとわかったのだった。
志乃が営業の天才といった訳もわかった。
優しげな、気持ちを察してくれる雰囲気は、お客様仕様だったのだ。
美咲は、志乃ほどに、彼の懐に入っていないので、他の女性に対するのと同じ、優しい対応になるのだろう。
掛け合い漫才のように、キツイ言い回しをする二人は、独特な信頼関係のもとにあるための、二人だけの特権のような会話だった。
たまに、美咲自身置いておかれたような状態になることも・・・。
元々、上機嫌だった篠山は、たまに志乃と美咲を交互にみて、至極ご満悦な表情を浮かべた。
なんだか、お気に入りの花を両手に抱えて堪らない・・。みたいた顔だ。
帰りがけには、さすがに志乃の前で、生徒さんに渡すみたいに、あみぐるみを美咲に渡すことはしない。
三人で話した時間は、美咲にとても楽しい時間だった。
篠山と、志乃に見送られて家を後にした美咲は、心の中が、ほっこり暖かくなって、とても気持ちのいい気分で、寮に戻ることが出来たのだった。
帰りの電車の中で、彼ら二人の姿を思い出して、
(それにしても、あの二人・・・許嫁なんだけど・・・付き合っている感じには見えなかったわよねえ・・。)
 余計なことをつぶやいて、また自分で自分をいさめる。
 友達の恋模様を、あれこれ詮索している場合ではない。
 美咲の方こそ、時間がないのだ。
 カウントダウンの数字が『0』になるまで、美咲はどう過ごすべきなのか、考えないといけない所に来ているのは間違いないのだから・・・。




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