●37話

 ・・第二章・・


「・・・よくわかってるじゃない。わざわざ連れてきてくれたの?」
「まさか。さっき言ったろ?河田は、俺のパッチワークを見に来たんだ。
手芸が趣味でな。共通の趣味を持った俺達は、意気投合したんだよ。」
篠山の、志乃に対する態度が、明らかに彼の周囲の女性に対した時と違う。
一瞬、投げ捨てるような言い方をする。
「・・・あの・・。作品を見せてくれる・・か・・な?」
二人の間に流れる剣呑な雰囲気に、耐えられなくなって美咲が問いかけると、篠山は、アッと口を開いて、
「そうだった。ちょっと待っていてね。・・あんまりたいした作品はないんだけど・・。今作っている作品はね。久しぶりに、大判のベットカバーを作ろう。って、がんばっている所なんだ。
・・志乃。気が進まなかったら、出て行っていいぞ。」
やはりそうだ。美咲に話しかける口調は柔らかいのに、志乃に語りかけた最後の言葉には、間違いなく小さなトゲがある。
「出ていく時は、自分から言うわ。」
志乃の方も負けてはいない。
「昇が言った通りなんだから。こんな可愛い子、めったに拝めないじゃない。
ごめんなさいね。河田君を目の前にして、こんな事言っちゃって。」
言って、ニッコリ笑みを浮かべてくるのだ。
「・・・志乃とは政略結婚のようなものでね。」
少しゲンナリとした感じで、篠山が言葉を挟む。
彼女もおっとりと微笑んで、
「そうでなかったら、ここにはいないわ。」
・・・・お互い、かなりツワモノ同士だ。
これでは体の関係どころではない。
けれども、彼女だけに出る篠山のツレナイ態度は、何も思わないにしては、構えすぎているように感じられる。
そもそも許嫁に、わざわざお茶を出してもらう必要はないのに、頼んだのは篠山自身だ。
考えすぎかもしれないが。
(篠山も、もったいない・・。)
こんな可愛らしい許嫁がそばにいるのに、気持ちが寄り添わないなんて・・。
二人の雰囲気は、どこかしら似通っていて、かなり長い間の時間を共に過ごした感があった。
「河田君。昇は男のクセに、パッチワーク所じゃないのよ。あみぐるみなんて、あっという間にしあげちゃうんだから。
ここに置いてもキリがないから、生徒さんにプレゼントするのよ。お手製の可愛いあみぐるみをもらった生徒さんなんて、イチコロよ。
女心をくすぐる営業の天才よね〜。」
彼女のいらえに、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「いらない事言うなら、出て行け。」
階段を指さして言い切る篠山に、肩をすくめて
「もう、何も言いませ〜ん。」
軽く言って、美咲を見つめる志乃の瞳は、キラキラ輝いて、見惚れるくらい、美しかった。



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