●36話

 ・・第二章・・


彼の家に来ると、絶句する事が多すぎるようだ。
でもすぐにも納得する。たち振る舞いが、どこか優雅で、絵になるような時があったのは、日本舞踊を習っているからなのだ。
「・・・これでも懐事情は大変なんだよ。昔のように、手習いでお茶お花。なんてする人が少なくなってきているからね。
日本舞踊は、たち振る舞いの修行のため。
お茶の先生が、しぐさが雑なのも、頂けないだろう?」
こっそりと、打ち明け話をするかのように、身をかがめて言ってくる。
美咲はひどくドキマギするのを感じた。
彼の部屋で、二人っきりで寄り添われたら、どうしたらいいか分からなくなってくる。
「手編みで作るあれこれも、生徒さんとの接点をもつためもあるかもね。
まあ、性に合わないと、やってらんないけど・・。」
品物見る?
不意に、スッーと美咲から離れて、部屋の中に入るように促す彼の様子に、美咲はホッとする。
ちょうどその時、盆にお茶とお菓子を乗せた、和服の少女が姿を現した。
「失礼致します。」
言って、視線を落として美咲達が部屋の中に入るのを、立って待っている。
薄桃色と白色が濃淡を繰り返す、淡雪のような着物の柄だった。
少し癖のある髪を後ろで一まとめにし、化粧っけのない顔の割に、ふっくらと厚めの唇が官能的だ。
触れればパチンと弾けそうな健康的な白い肌を、淡雪の着物が覆っている。
「佐竹志乃・・・僕の許嫁なんだ。聖華女子に通う。現在高校1年生。」
ニッコリ笑って篠山が彼女を紹介する。
「河田凉くん。学校の友人だ。」
篠山の紹介に、彼女が頭を下げる。
「はじめまして。佐竹志乃と申します。」
落ち着いた物言いは、とても同い年には見えない。けれども瑞々しい体つきは、若い者特有の薫りを発している。
「あ。どうも、河田凉です。」
なんだか彼女に圧倒された感じになってしまって、美咲が答えると、
「さあ。中に入って座ってよ。立ち話もなんだからさあ。」
上機嫌の篠山が、おいでおいでをしてくる。美咲はあわてて頷いて、促された座布団の上にチョコンと座った。
志乃は、ゆったりと腰をおろし、完璧な動作で、お茶とお菓子を卓(テーブル)の上に置いてゆく。
お茶を差し出す指だって、ふっくら柔らかそうだ。
志乃をジロジロみてしまう美咲は、例の“女の子が羨ましい”気持ちが湧き上がってきているようだ。
そこで、また自己嫌悪に陥ってしまう。
やはり綾香の件があったからなのだろうか。男性のそばに、堂々と立てる女性の姿を見ると、きまって出てくる暗い感情は、美咲が戸惑うほどに、生々しい。
将来を約束された二人は、美咲から見ても、とてもお似合いだった。
(もう・・ヤッっちゃってるのかしら・・。)
 篠山は、彼女の瑞々しい肌を、すでに味わっているのだろうか・・・。
 下司な勘繰りだ。
 思わず自分で自分を批判する。
 こんな風に思ってしまった自分に違和感を持つ。
 ひょっとしなくても、“河田凉”の体の影響を受けているのだろうか・・・?
「河田も、パッチワークをするらしいんだ。作品を見せてほしいって・・。」
そんな美咲をよそに、篠山は志乃に、事情を話している。
「そうなんだ。」
答える彼女の言い方が、不意にそっけない?感じを受けたのだが、気のせいだろうか。
(許嫁のはずだよね??)
「どうだ。校内でも評判の河田凉だ。お前の好みそのものだろう?」
(え?何だって!)
篠山の言った意味が、即座に理解できない。


  HOME   BACK  NEXT