●34話

 ・・第二章・・


「・・・・今回は、泣かないでよ。やっと家に来てもらうんだから。」
上機嫌な篠山の顔。
「さすがに回り道しないから、大丈夫だよ。」
答える美咲に、ジットリといった感じで、
「本当?」
と、聞いてくる。
また今度、篠山の家に行くというのを、彼はちゃっかり覚えていて今朝、学校内で、『いつにする?』なんて、軽く聞いてきたのだった。
『いつでもいいよ。』と答えた結果。放課後の今、こうやって二人で、電車に揺られていた。
パッチワークの彼の作品にも、正直興味がわいていたのも事実。
例の駅に着き、今度は篠山の家に、一直線に向かう。
「ここなんだ。」
ほぼ駅前と言っていいくらいの、純日本家屋を指さして言った屋敷は、外から見ても、かなり大きいのがよくわかる。
観音開きの木製の表門は開ききっていた。綺麗に掃き清められ、内水を施された石畳の小道は清々しいほど。
左右の庭には、小さいながらに趣向が凝らされている。
初夏の花々が、柔らかに咲き誇っていた。
「ここは・・。」
あ然となる美咲に、柔らかな瞳を向けて、篠山が、ソッと言葉を添える。
「俺の父親はさあ。大したことないんだけど、お茶の師範の仕事をしてるんだ。この庭は、すべてお客様の目を憩わせるためのもの・・・。」
(知っている・・。)
美咲自身、この近所に暮らしていたのだ。
田中美咲だった頃に、友達だった女の子が、ここに通っていた。
母に付き添われて、興味半分入ったお茶の世界に、彼女の心を捕えた少年がいた。
当時はいい加減に話を聞いていたので、名前をすっかり忘れてしまっていたが、お茶の先生の息子だった事くらいは、記憶にある。
一人息子だった事も・・・。
(さやかが好きな相手って、篠山だったの?)
妙なつながりを感じてしまう。
そういえば、見た目こそ、竹林には劣るものの・・というか、竹林は良すぎた・・・メガネをかけて、ヒョロリとした体型は、一見どこにでもいる少年だ。
けれども彼といるととても居心地が良くて、話がしやすいのだ。
気持ちをさり気なく察してくれる所もあって、見る目のある女の子からしたら、篠山のような男性こそ、心を奪われる男性のタイプなのかも知れない。
目を丸くして歩く美咲に、篠山は柔らかな瞳を向けたままだ。
二人はゆったり進み、引き戸の玄関までたどり着くと、篠山が手をかけた。
カラカラと、軽やかな音がする。



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