●33話
・・第二章・・
・・・・竹林に、田中美咲であると告白してからの二人の関係は、どう表現したらいいだろうか。
美咲は思う。
彼の前では、男言葉を使う必要はないとは思ったものの、自分の言葉で語ったのは、カミングアウト(?)した時だけだった。
後は以前の言葉使いに戻してしまった。
なぜだか、二人っきりになると照れてしまって、わざと構えた言い方をしてしまうのだ。とても自分の言葉で話せたものではない。
耕太郎の時はそんな事考えもしなくて、自然に元の言い方に戻せたのに、この感覚は、不思議なものだった。
それでも、竹林への想いは本物だ。
竹林も、前以上にそっけない素振りを見せたりするのに、時には驚くほど熱い視線を向けてくる。
触れるか触れないかのようなキスを、受け入れてしまったからか、彼は何の抵抗もなく、自然な感じで唇を重ねてくる。
カウントの数は、驚くほど減っていった。
さすがにキスのたびに減ることはないのだが・・・もし、そのたびに減っていたなら、一週間もたたないうちに、『 0』の数字を拝めていただろう。
現在は『5』の数字が浮かんでいる。
何を基準に減るのか、未だによく分からなかった。
そもそも始めに『10』から『9』に減った時の、理由が分からない。
が、約束の『恋人を作らない』を着実に破るような行為が続き、結果。数字が、今までにない速さで、減る現象が起きているのは、間違いのない事実で・・・・。
竹林に、事情を説明し、『自分に触れないで。関わってこないでほしい。』と、一言言えば、分かってくれるだろうと思う。
おそらく、ひどい勢いで減ってゆくカウントダウンだけは、抑えれるはずだった。
減る理由が分からないのが問題だった。竹林を遠ざけても、ある程度の時間がたてば、今まで通りのゆったりとした速度で、数字が減ってゆく可能性だってあるからだ。
彼のいないカウントダウンを迎えるか。それとも彼と過ごす短い時間を選ぶか・・・。
美咲は、自然と後者の方を選んでいた。
彼と共にいる時間は耐えがたいくらいに甘美な時間で、彼がいない時間などは、何の価値も見出せないように思えてくるのだ。
田中美咲であった頃でも、こんな気持ちになれる相手に巡りあえは、しなかった。
竹林との時間を、美咲は大事にしたかった。
カウントダウンの数字は、早急に、確実に減ってゆく・・・・。
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