●32話
・・第二章・・
「・・・河田凉・・田中美咲の話は、ここまでで、後は俺が裏をとった資料だ。
照らし合わせてみればわかるが、彼女は口から出まかせを言っていない事は、この資料を見てもらえばわかるだろう。
これが二人のカルテだ。」
竹林の呼び出しに、顔をだした青木、篠山に、話の概要を手短に教えての言葉だった。
竹林は、印刷した書類を、一部ずつ二人に渡す。
「これは、うちの病院のものなんで、読むだけにしてほしい。読んだあとは、俺がシュレッダーにかけて、処分する。」
「すごいぞ、竹林。よくこれを出してこれたね。」
目を見開いて、しみじみ見つめる
「・・・専門用語だらけで、訳わかんないぞ。」
眉をひそめて篠山のいらえに、
「全部読む必要はない。大体の事故の記録と、死亡の診断書くらいか・・・。
特に見てほしいのは、田中美咲の住所なんだ。
・・・河田が、涙を流した場所は、ここか?」
打ち込んである文字を指さす竹林に、篠山は顔を近づける。
彼は先天性弱視のために、注視する場合は、メガネをつけていても、紙面を近づけないと見えにくいのだった。
「・・・あぁ。この辺りだな。間違いない。ここだ。河田が泣きだした場所は・・・
事故にあって、入れ替わったなんてなあ。
本物の河田凉はこの子の代わりに、亡くなっているんだ・・・。そして加害者の中に潜んでいるなんて・・。」
世の中、不思議な事も起こるものだ。
しみじみつぶやく篠山に、
「俺が聞き出した内容から、裏も取れたことだし、彼女は俺達に害なすような人物じゃないのは確かだ。自分でも、なぜこんな状況に陥ってしまったのか、分からないとさえ、言っていた。」
珍しく、視力がいい青木も、紙面に顔をうずめるようにして、資料を見合わせ、クルリと竹林に向きなおると
「牡丹灯籠みたいに、取り込まれるなよ。竹林・・・。」
と、昔話を持ち出して、コメントする。
悲壮感すら漂う青木に比べて、さらに興味が惹かれたような表情で資料を見つめる篠山とは、対照的だった。
「何が牡丹灯籠だ。田中美咲は、死んでいないぞ。
とにかく謎は解けたんだ。いらない腹の探り合いは、これでナシにしてくれ。」
「竹林が、ここまでしたならなぁ・・。」
頭をポリポリ、気勢をそがれた感の青木がポツリとつぶやく。
その言葉に、竹林がこぶしをグッと握りしめて、ガッツポーズを出す。そして勝利の笑みを浮かべたのだった。
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