●30話

 ・・第二章・・



 電流がかけ抜けるかのような、歓喜の渦が体中にゆき渡る。
 その中から、ゆったりと浮き上がってくる想いを、美咲ははっきりと言葉にすることができた。
 自分は、この人の事・・好きなんだ・・。と。
 彼の腕の中はとても暖かかった。
 美咲と同じような、華奢な体付きの割に全然違うのだ。
 しっかりと筋肉のついた体は頼もしく、重なった部分の肌が、早鐘を鳴らすかのようにドクドクと波打った。
 そんな心地に、戸惑いを感じて少し体を離すと、すぐ眼前に竹林の瞳とぶち当る。
 二人の顔が近付いて・・・。
 触れるか触れないかのキス。
 それはスッとそれて、彼からの包容に、ふたたび身を重ねることになる。
 竹林は、唐突な出来事に対する“照れ”のようなものがあったのだった。
 美咲と目を合わせられないので、ごまかしの包容だったのだが、美咲の方は違った。
 彼に身を任せて、抱きしめられたおかげで、崩れ落ちずにすんでいた。
 なぜなら、彼の唇が触れた瞬間。
 美咲の視界の隅に、不意に浮かび上がったカウントの『9』の文字が、いきなり『8』に減ったからなのだ。
 入学式の日以来、減らなかった数字だった。
(なんで減っちゃうの??)
 本物の河田凉と契約した内容を思い出す。
 美咲に残された契約は、あと一つ。
『恋人を作らない。』
 恋をしないではない。人を好きにならないでもない。言葉自体は陳腐なまでの表現だ。
「俺はお前を信じるよ。・・・だって、こんなに可愛い奴が、野郎なわけないじゃん。
 俺は、お前を守ってやりたい。付き合ってくれないか?」
 彼の言う意味の“付き合う”が、よくわからない言い方だった。
 男女の付き合いとして受け取っていいのか。それとも、この妙な状況に対する対処法を、突き止めていくのを付き合うのか・・・。
 けれども、ささやく声は、限りなく美咲にとって、琥惑的に聞こえたのだ。
 ほとんど無意識に、うなずいていた。
 間髪入れずに、数字が目減りする。
 『8』から『7』へ・・・・。




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