●3話
・・第一章・・
「・・・えっとぉ。ここかなぁ。・・・301。」
木の扉の上にあるすべてのナンバーのプレートは、薄くて文字がほとんど消えてしまっていた。
外からみたイメージそのままの、歩くたびににギシギシ唸る木の床にビクビクしながら、なんとか順番にたどっていって、301であることを確認する。
その部屋の扉の前まで来ると、ゴクリと唾を飲み込む。
この寮は相部屋だ。
同居人は、すでにいるかもしれない。
コンコン。と、指で合図してドアノブをつかむと、それはガチャリを音をさせて動いた。
「失礼しまーす。」
おずおずドアを開けて中をのぞくと、同居人はいた。
ちょうど部屋の半分ずつを使うように配置されてあるらしい。
木の床に、部屋の両端にベット。互いのベットのすぐ横には簡易な木の机があった。
部屋の真ん中を、カーテンレールで区切る事ができるようになっているらしい。
分厚い布が、机と机の間に固めてくくられていた。
同居人は、椅子に座っていて、振り返るような姿勢で固まっている。
漆黒の髪は、うっとりするほどサラサラで、艶やかだ。
美咲を認め、みるみる瞳に力が入る一重の瞳はパッチリと大きい。
とても可愛らしい、少女のようにあどけない雰囲気を持つ少年だったのだ。
(『河田凉』も顔負けだぁ・・・。)
思わずうっとりしかけてハッとなり、
「はじめまして。ここに住むことになった河田凉です。よろしく・・です。」
と、軽く会釈して言葉をだすと、彼はなぜだかピューと、口笛を吹いた。
「君と同室なんて光栄だよ。仲良くしようぜ。俺の名前は竹林ヒカル。」
と、立ちあがって握手をしてくるのだ。
彼の体つきは細身で、背丈も凉より少し高いぐらいだった。
なぜだかそれを確認した美咲は、同室の男子がむくつけき大男でなかった事に、少し安心する。
同時にちょっとドキドキする気持ちになるのを、不思議な思いで竹林の握手に答えて・・・。
「いたたた・・。」
何気に彼は思いっきり握ってくるのだ。まるで、腕試しのように・・。
手をはなそうにも、しっかり握られているので離せない。
「痛いってば!」
必死に懇願するようにうなると、彼はすぐさま手を離した。
なぜだか歓喜の表情を浮かべて、
「俺の勝ち。」
と、一言つぶやくのである。
(なんなのこの子!可愛いの・・撤回!)
一瞬でもはかなげな少女のようだ。と思ったのが間違いだった。
彼はとんでもなく意地悪だ。
第一印象が、もろくも崩れ去るのを感じて、涙を浮かべて竹林を睨みつける美咲に、彼は首をかしげて見つめ返してくる。
そして、やわら腕をあげて美咲をスッポリ包み込むと、
「そんな目で男をみるものじゃないよ。」
と言って、竹林は自らの額を近づけてコツンと、つけるのだ。
「!!!」
いきなりの彼の行動に、美咲はどうしていいのかわからない。
硬直して固まってしまった美咲に、竹林はクスクス笑って
「冗談、冗談。」
と、つぶやく。そして、体を離すとベットサイドを指差した。
「荷物、届いてるよ。」
彼の言うままに視線を向けると、2.3個にまとめた段ボールが鎮座ましましていた。
「ありがとう。荷物を整理するよ!」
なぜだかバカにされているような気持ちになって、怒りにまかせてカーテンをサーと引く。
ほどかれていない段ボールを直ちに開けてゆくのだった。
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