●29話
・・第二章・・
「・・・私の本当の名前は、田中美咲なの・・。
河田凉に車にひかれた被害者だった。ひかれた私の体は、心肺停止状態で、死ぬのは時間の問題だったの。
不思議な現象が起こって、河田君は、私の代わりにあの世へ逝ってくれた。
私の体はもう、使い物にならなかったから、彼の体を使うようになってしまったの。
なぜそんな事が出来たか聞かないでね。私自身、この状況を、よく理解できていないから・・・。」
話をしながら、奇妙なデジャブ感を味わう。
これと、全く同じような説明を、耕太郎に言った時のことを、思い出していた。
「信じられないことだけど。…本当のことなの・・。」
最後の方の言葉は、小さくなってゆく。話終えた後、チラリと竹林を見上げると、彼の真剣な表情は変わらない。
「・・・・田中・・美咲・・。」
噛んで含めるようにしてつぶやく竹林は、河田凉の中にひそむ美咲の姿を透かし見ようとでもするかのように、目をそばだてていた。
「・・・ありがとうな。正直に言ってくれて・・。
こんな事は言いたくはなかっただろう?
俺は河田が誰だろうが、構わなかったんだ。青木達が、あんまり謎解きのようにして、お前の事を、裏でコソコソ調べようとするものだから、いっその事、本人から聞き出した方が早いと思ってな。」
竹林は、荒唐無稽な話を、一笑に付しなかった。
「青木達が?」
「そうだ。」
答えて、意志の強い瞳で見つめられて
(あぁ・・。この人も、信じられる・・。)
と、しみじみ思った。滅茶苦茶うれしかった。
「・・・青木達って言うんだったら、篠山も知っていたわけ?」
「そうだ。」
「そんなの・・・ずるいよ・・・みんなで私が女だってこと分かっていたのに隠していたんだ。」
言いながら、ポロポロ涙があふれてくる。
こんな所で、美咲の状況を理解してれる人に巡りあうなんて、思いもしなかった。
「こうやって・・聞いてくれたら私、・・ちゃんと答えたよ。・・・竹林や、青木や、篠山だったら・・・。」
嗚咽を漏らしながら言葉を出すのは、とてもしにくい。 そんな美咲に、竹林はやわら立ち上がった。
涙で、顔がグジャグジャになって、袖で拭いながら話す美咲の体をかき抱くと、ソッと
「・・ごめん。・・み・・さ・・き。」
と、つぶやくのだ。
その時、美咲の中で、何かの感情がはじけた。
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