●25話
・・第二章・・
「青木、・・・この前、河田と二人で、俺んちの最寄りの駅で、降りた事があったんだよ。
何てことない普通の一軒家の前までくると、河田。すごい勢いで、涙を流したんだぜ。・・・どうやらあそこは、河田の中に入り込んでいる彼女と、関わりのある家があるらしい・・・。」
そこは、元生徒会室。
青木、篠山、竹林の三人だけがいて、美咲は同席していない。
三人がそろった途端、篠山が口を開いたのだ。
篠山も、青木から“河田凉”の中に潜む少女の存在を、入学式の次の日には耳にしていた。話を聞いて、
『初めて会った時も、変な感じがしたんだ。・・・聞いて分かったよ。河田は女の子だったんだな。』
と、フムフム。と納得。彼なりに合点がいったようで、一人で頷いたほどだった。そうやって青木の話を、既定の事実のようにして、受け入れた上でのコメントだった。
竹林が、眉をひそめる。
「なんだそりゃ。・・・なんで、お前ら二人で、そんな所行くんだ。」
「手芸屋さんで、バッタリ会ったんだ。パッチワークの作品を見せてくれって、河田が言ったんだよ。
・・・そんなことより、ホントただ事じゃなかったぜ。俺ん家の近所だから、また近いうちにでも、その家を見てみるけど・・・。」
「その家、おそらくビンゴだ。
関わりのない家の前で、ポロポロ泣くわけがないから。
篠山。その時は俺も呼んでくれ。何か感じるかもしれないからな。」
「やめておけよ、青木。お前、そんな能力、もう使いたくないって、言っていたじゃないか。」
制止の竹林に、青木はクルリと竹林に向きなおって
「彼女が、俺達に無害であることが分かるまで、謎は究明させてもらうから。」
と、はっきり宣言する。
「田中って表札に書いてあったぞ。」
少し物思いにひたった様子で、ポツリをつぶやく篠山に、
「おい、篠山。お前まで、なに乗ってるんだよ。」
と、竹林が困った様子で言いつのる。その言葉に、チラッと視線を戻した篠山は、
「俺は青木ほどに、河田の事は警戒していないぜ。逆に結構、可愛い奴だと思っているくらいだから。
だからこそ、気になるじゃん。河田の中に潜んでいる女の子って。」
どんな子なんだろうね。
ニタっと、笑う表現がピッタリの篠山の笑顔に、竹林が気色ばむ。
「・・・篠山。悪趣味もほどがあるぞ。」
殴りかからんばかりに歯を食いしばり、握った握りこぶしをフルフルふるわせる竹林に、青木は手で制した。
「まあまあ、そんなにムキになるなよ。竹林。」
「お前がそれを言うか!」
二人に言い返されて、目をきょろきょろさせる青木なのだった。
「・・・河田の家に行く時は、俺も絶対行くから。お前等、ぬけがけはナシだぞ。」
竹林がポツリとつぶやく。
地の奥底から湧き上がるような低い声と、据わった目付きで睨みつけてくる竹林に、青木、篠山両人とも、一瞬後ろにのけぞった。
二人とも、お互い目配せしながら、すぐさま引きつった愛想笑いを浮かべる。
「当然じゃん。肝心のお前がいなくてどうするんだよ。」
と、青木は、あわてて言葉を続ける。
見た目は可憐な竹林は実は、キレると、とんでもなく恐ろしいツワモノなのだ。
今でこそ、落ち着いて、おいそれと相手をぶちのめす事はなくなっていたが、わざわざ眠れる獅子を起こす必要はない。
河田凉に関する話題は、竹林にとっては、どうやら鬼門になっているのは、わかっていても、口にせざるを得ない青木が、小さくため息をついていると、
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