●24話

 ・・第二章・・

 
「…この駅なんだ。」
 電車を乗り継ぎ、停車した駅を指さして言う篠山に、美咲は返事できなかった。
 なぜなら、この駅は美咲にとっても、とても馴染んだ駅だったからだ。
 この駅を降りて、10分ほど歩いた先に、田中美咲の家があった。
「ちょっと・・寄りたい所があるんだけどいい?」
 顔面蒼白、ただならぬ雰囲気で訴えかける美咲に、篠山は戸惑った笑みを浮かべた。
「いいけど・・どうしたの?顔、真っ青だよ。」
 心配げに聞いてくる篠山に、ぎこちない笑顔で返し
「こっちなんだ・・。」
 と呟いて、篠山を誘導する。
 左に曲がり、右に曲がり、慣れた道を通る美咲には、懐かしい景色だ。
 胸がいっぱいになる。
 近づけば近づくほど、締め付けられるような懐かしさが込みあがってくる。
 ほどなくして、見慣れた門扉の前まで来ていた。
 木で出来た表札は、月日がたって、黒ずんでいる。塀からすぐ二階の錆びついたベランダから・・・何てことない古びた家だ。
 けれども、そこは事故が起きる直前まで、美咲が暮らしていた場所だった。
 正視ができない。
 視界がぼやけると思ったら、涙が後から後から湧き出てくるのだ。
「河田・・・どうしたの?」
 見る間に動揺し、涙を流し出す美咲に、怪訝な顔で聞いてくる篠山に、美咲は首を左右に振って、
「・・・ごめん。篠山の家にお邪魔するの、今度でいいかな?」
  と、だけ答える事ができると、
「うん、全然かまわないよ。けど、どうしたんだよ。本当に大丈夫?」
 ハンカチを出して、うつむき、顔を覆ってしまった美咲に、篠山は裏返った声を上げる。
 まるで、篠山が泣かせたシチュエーションなのかもしれない。通りすがりの女性が、首をかしげて二人を見るのだ。
「あの・・その・・。」
 しどろもどろになって、榛の肩を抱こうとして、戸惑う姿は、いつもの彼にしては、だいぶと滑稽だった。
「ごめんっ。駅、戻っていい?」
 涙ながらにつぶやく美咲の言葉に、篠山は一の返事で
「ああ、帰ろう。」
 と、返事するのだった。
 その後、心配した篠山に、結局は学校の寮の前まで送ってもらった美咲は、部屋の中まで送ると言い張る彼に、
「もう大丈夫だから。」
 と、言い置いてほとんど無理やりといった感じで、彼から離れたのだった。




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