●19話

 ・・第一章・・



 美咲の方はというと、篠山が言った通りの、ボリューム重視の昼食を食べた後、彼に誘われて、いつも3人でたむろしている場所へと向かっていた。
 言われるまで知らなかったのだが、かつてのこの香徳大は、今の理事長の先祖に当たる人が、私財をなげうって作られた学び舎だったそうなのだ。
 学校の敷地の奥には、かつての理事が住んでいた屋敷があるらしい。
 今は、屋敷も老朽化して、住む人もいない。そこは裏寂れてはいても、有名な屋敷だそうで、手入れはされているそうだった。
 その屋敷の近くの小さな建物。
 樹に埋もれ、小ぶりながらも人目につかない凝った造りの建物は、代々の生徒会が運営していた場所らしい。
 今は生徒会も別の場所に移り、だれも使う者のいない場所だったという。
 そこを秘密の隠れ家にできる彼らはどうゆう人達?と、美咲は感嘆の吐息を吐いたくらいだった。
 案内されて、中をキョロキョロ眺める美咲に、篠山が
「ここの存在を知っているのは俺らだけらしいんだ。他の者には使わせないんだって。ここに入れた君も合格のようだよ。」
 と、謎めいた言葉を吐く。
 さっきの青木の一言といい、彼ら三人は、どうも今まで美咲が知っているタイプの人達と、一味違っている感じがする。とても不思議な空気を、まとっていた。
 ぼんやりそんなことを思っている美咲に、篠山は何を思ったのか、
「ちょっと、散らかっているね・・。」
 と言って、やわら箒を取り出して掃除しだすのだ。
 確かに、埃がたまって散らかり放題のここは、かえって秘密基地の趣きがあるくらいだった。
「そんな・・あわてて掃除しなくっていいよ。」
 美咲が言うと、ピタリと篠山は動きを止めて瞳を輝かせる。
「そう?」
 と答えて掃除をやめかけるも、今さらながらに、ここの散らかり様が目に入ったらしい。首をかしげて肩をおとして
「・・でも、やっておくよ。汚なくしすぎてるからね。」
 と、つぶやくのだった。
「手伝おうか?」
「頼む。」
 美咲の声かけに、篠山は一言で返してくる。
「・・・ゴミ袋はあそこにあるものを使ってくれるといいよ。確か、ぞうきんとバケツは、隣の部屋にあったと思うから・・。」
 掃除するつもりではいたんだぜ。休み前にぞうきんと、バケツを持ってきていたんだが、・・・後回しになっていて・・。
 彼の言葉は、言い訳にしか聞こえなかった。
 とはいえ、竹林達を待つ間、いい暇つぶしにはなるだろう。
 ジュースの空き缶に、グラビアの雑誌。マンガの数々。
 お決まりのように、空き缶を持つとカサカサと何かが入っているような音がして、中を覗くと煙草の吸殻だった。
(青木か、篠山かな?)
 なんて思う。昨日一緒にすごした竹林からは、一度もタバコのにおいがしなかったからだった。
 煙草を吸わない美咲は、少し眉をひそめるものの、わざわざ注意するのは野暮というものだろう。なんて、心の中でつぶやいたりする。
 男3人寄れば、こうも散らかるものなのか?なんて思うが、片付けないならこんな感じにはなるのは、当然といえば当然だ。



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