●18話
・・第一章・・
「河田凉!・・・あぁ、なぜすぐに思い出さなかったんだろう・・。」
髪の毛を掻きむしりながらつぶやく青木に、竹林は眉をひそめる。
「文化祭の時のことって、そんなに大切なことなのか。」
「そんなこと俺に聞かれてもわからんよ。・・・だけれど、あの時だって、感じてはいたんだ。何かがあるって。」
これは、確信だ。
竹林に向かって指さして言う青木を、知らない者が聞いていると、頭がおかしくなったと、心配するほどのコメントだろう。
けれども、竹林は、青木を過去の経験と、彼自身の日頃の性格から、信ずるに足りる奴だと、思っていた。
ため息一つつき、
「それはわかったから、そんなに警戒しなくてもいいんじゃないか?」
と返すと、彼は首を振り、
「お前が無放備すぎるんだよ。このケースは、気に過ぎるに越したことないケースだと、俺は思うぞ。」
さらにたたみかけるように言ってくる青木を、おさめる方法はただ一つ。
青木の意見をひとまず飲んでやることだ。
「わかった。気にかければいいんだろ。河田凉の中には違う少女が棲んでいるって。用心するよ。」
竹林が、意見を認めるトーンで話すと、果たして彼の反応も変わってきた。
「そうだ。確かに、河田自身は嫌味のない奴だと思うよ。俺だって、あの子にニラミをきかせるなんて、したくはないさ。
よくわからない現象が起きていたとしてもね。
ただ、頭の隅に深追いするなって、警告音が鳴るんだよ。
お前。だいぶ盛り上がっているみたいだから・・・いつもと違ってね。」
と言われて、竹林は目を見開いた。
「・・・なななんだってぇー。俺は盛り上がってなんかいないぞ。
ただ、心配してるだけだ。アイツ、ここでは絶対苦労するタイプだから・・。」
「わかってるって。だからこそ、気になるんだろう?。」
竹林が息せききって言うのを、今度は青木がなだめるように答える。竹林に向かって気掛かりそうな表情を向けながら・・・。
「よりによって、なんであの子が同室になったんだろうね。」
コソッとつぶやくようにささやく青木の声を、竹林はまたしても耳に入っていない。
「あんなにボーっとしていたら、危なっかしくて仕方がないだろう。同室のよしみで気にかけざるを得ないんだし・・・。」
言い訳にしか聞こえないセリフを、ブツブツつぶやく竹林に、青木は額に手をやって、ため息をつくのだった。
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