●17話

 ・・第一章・・


「なんだよ。おい!」
 羽交い絞めにされた青木は、瞳を白黒させてうめくのだが、意外に竹林の力は強いらしい。
 彼に引きずられるようにして、二人が教室から出ていくのだった。
「・・・教科書から、何から、全部忘れてるよ。あの二人。
 まずは、これを寮の部屋にまで持って行こうか。
 河田は、竹林と同じ寮暮らしなんだろ?青木もだから、後で渡しといてくれる?」
 やれやれ。といった感じで言ってくる篠山に、美咲は机の横に置いてある紙袋に目にやって、コクンとうなずくのだった。
 あわてて去って行った竹林と青木の態度は、まるで美咲に知れたらヤバいような、含みのある感じだ。
(あの時だって、見えたんだ。あの姿を・・。って、どうゆう意味?)
 言葉の意味を考えてみても、さっぱり見当がつかない。
 首を振って、ため息をつく美咲に、荷物をすべて手にした篠山は、にこやかな笑みを浮かべて
「じゃあ、行こうか。」
 と、言ってくるのだった。
「・・・うん。」
 美咲も自分の荷物を手に持って、返事するのを合図に、二人は教室を出ていった。
 高校の教室からは、寮は比較的近い。
「半分持とうか?」
 と、三人分の荷物を抱えて前を歩く篠山に声をかけるのだが、
「いいよ。たいして重くないから。」
 と軽い返事が返ってくる。
 荷物を持っても、歩く速度は、結構速い。
 段々とついてゆくのに必死になった美咲は、彼の言葉に素直に従ったのだった。
 そもそも彼と美咲は、足の長さから違っていたからかも知れない。
 この篠山という男は、座っているときにはわからなかったが、結構身長が高かった。180センチ以上は優にあるはずだ。
 ヒョロリとした体躯に、色白の肌。頬はパチンとはじけそうな赤みが走っていて、眼鏡を掛けても童顔に見えるのは、アンバランス過ぎる。
 おまけに彼の動作も、結構優雅だった。
 どこかの舞でも習っていると、聞いても不思議には思わなかっただろう。
 太ってはいないのに、プヨプヨした感触を持つ男。
 (な〜んか不思議な人よね〜)
 と思いながらも、
 『歩く速度を、もうちょっと遅く・・・。』と、何回か言葉に出そうと思っても、なぜだか口には出せない。
 そうするうちに、寮にたどり着き、301号室の前まで来ていたのだった。
 美咲は鍵を開けて、中に入ると、篠山も入ってくる。
 荷物をすばやく置くと、篠山も二人の荷物を部屋の真ん中あたりに置いた。
 その間、終始無言。
 部屋を出て鍵を閉めると、肩を落とし、
「ランチは何にする?・・俺がうまいと思う店って、どこもボリューム重視なんだよな。河田の口に合わないかも知れない。」
 暗い表情で、ポツリとつぶやいてくる彼に、
「僕はどこでもいいよ。好き嫌いないし。」
 と答えると、いっきに明るい表情になる。
「本当?」
 答える篠山の顔を見て、彼が店のことで悩んでいたのだと知るのである。



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