●16話
・・第一章・・
(綺麗って?私が?)
「僕、男だよ。」
綺麗なんて言葉、男子にする表現ではない。思わず言った美咲の言葉は、竹林の笑いのつぼに、入ってしまったらしい。
「ブファ。ワーハッハッ。」
と、息を吐いて、いきなり大爆笑するのである。余計何だか分からなくなってしまった。
「大・丈。夫。・・俺達が・・守ってやるから。・・・心配するなって。」
ひいひい言いながら、なんとか言葉を紡ぎだす竹林に、美咲は心底憤然となってしまう。
「なんだよ。僕はもう、自分で何でもできるよ・・。」
頬をプーと膨らませてブツクサつぶやき、同時に思う。
保健室から帰ってきた竹林の様子が、どうも違うのだ。
そんな事を考えていると、突然
「あぁー!」
と、青木がいきなり美咲に指をさして怒鳴るのだ。
その声に一同びっくりする。
「何だよ。いきなり。」
と、どなり返される青木なのだが、そんなものは一向にかいする様子はなく、
「車椅子の子だあー。」
なんて言うのである。
「君、去年の中学の文化祭の時、車いすに乗っていた子だろ?
足治ったんだ。どうやってなおしたの?」
と、言葉を重ねてくる。
ついさっきまで、青木は警戒心たっぷりな表情で、美咲を見ていたのだ。たまには睨んでくるような感すらあった。
車椅子の一件で、そんな視線を浴びせかけていたなんて、一瞬で忘れたようだった。
「えぇ?この子が?じゃあ、歌を歌っていた子?」
篠山までが、耳を疑うようなコメントを吐くので。美咲はクラリとめまいがする。
確かに、去年は車椅子に乗っていた。
そして文化祭では、イヤな事があった。
自棄になって一人、校舎と校舎の間に隠れるようにして、歌を歌った。
なぜそんな事まで、彼等が知っているのだ。
フルフルと震えだす美咲に、
「やめてやれよ。何だか思い出したくない過去の事のようだぜ。」
竹林が、さりげなくフォローしてくれる。
彼のコメントで、美咲は救われた。
「何があったかは、知らないけれど、俺達は河田が歌を歌っている所しか見ていないからね。」
美咲の心境を、さりげなく推察した篠山が、言ってくれる。
青木は一人ウンウンとうなずくと、
「・・・・あの時だって、見えたんだ。あの姿を・・。」
と一人、訳のわからない言葉を漏らすのだった。
「お前、何言ってる・・。ちょっと来い、青木。」
あわてた竹林が、青木を羽交い絞めにすると、
「河田。昼飯だったら先に食っておいてくれ。そこの篠山が、この周辺のランチのうまい所、よく知っているから。・ ・・俺達は野暮用で、こいつとちょっと出かけてくるわ。
後で落ち合おう・・・。」
いつもの場所で。
と、あとの囁き声は、篠山に言った。
「オーケー。」
と、篠山は軽い返事を返す。
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