●15話

 ・・第一章・・

 そんな一声が、一瞬シーンとなった”場”のようなものを見事に崩してしまった。
 美咲だって、ハッとしたほどだ。
 声を出したのは、美咲の横の席に座る篠山だった。
 言葉とは裏腹に、彼の視線は柔らかだ。
 その言葉でクラスの雰囲気は緊張の糸がほぐれた。ホッとしたような雰囲気が流れ、すぐにも各々話す言葉で、騒がしいものに戻る。
「よう。早速、河田と話しているのか?篠山。」
「そうゆうお前も知っているのかよ。いつの間に顔見知りになっているんだ。」
「昨日からだよ。こいつと同室になったんだ。」
 篠山の姿を認めた竹林は、一直線に近づいてきながら話しかけてくる。
 その様子は、互いに仲がいいらしい。
 河田凉の事をダシにしながら話す彼らは、リラックスして楽しそうだ。
 ぼんやりそう思った時、教室の入口の引き戸が、ガラガラと閉まる音。
 瞬間、そこに視線を送った美咲は、背広を着た先生・・・・1年1組の松永先生の姿を認めるのだった。
「青木・・・もう大丈夫なのか?竹林も入学式なのに、面倒かけたな。」
 と、先生は二人を気に掛けるセリフを口にした。
「はい、もう大丈夫です。ありがとうございます。」
「いえ、なんともないです。式に出たとしても、座っているだけでしたから・・。」
 二人同時に返事をしながら、すばやく自分の席を確認して座ってゆく動きは、さすが繰り上がり組の二人だ。
 慣れたものだった。
 先生は二人がそれぞれ自分の席に着いた事を確認すると、教卓に上がった。
 一呼吸おいて、
「入学おめでとう。これから3年間。有意義な高校生活を送ってくれたまえ。
まずは、出席を始める。青木康平。」
「はい。」
「鮎川祐介。」
「はい。」
 名前を呼ばれた生徒達は、手を挙げて答えてくる。
 要点を押さえ、テキパキ進める松永先生の人柄を、感じさせる一コマだった。


「・・・河田って、噂に違わず奇麗だねえ。」
 先生の簡潔な要件を聞いた後は、解散となったのだが、久しぶりに顔を合わせた面々がいるのだろう。
 ポツポツと、席を外して出てゆく生徒がいる中で、ほとんどの生徒達は、教室を出ない。
 竹林と、青木、篠山と美咲の四人も、なんとなくその場を立ち去りにくかった。
 どうでもいい雑談している間の、ふいに漏らした篠山のコメントだった。
「へ?」
 ほとんど聞き役に回っていて、ぼんやりしかかっていたせいで、一瞬、彼の言った言葉の意味が分らない。
 間抜けな返事をする美咲に、
「そんな言い方はやめろ。噂になっていたとしてもだ。」
 と、竹林が、篠山に諭すように言う。
「まあねえ。男が綺麗なのは、ここでは一利なしだからねえ。」
 なんて、軽く返す篠山に、美咲は目を見開いたままで、見返してしまった。




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