●14話

 ・・第一章・・


 入学式を終え、教材を購入し、新しい教室に一人入った美咲は、どこか居心地の悪いものを感じていた。
 中学からの繰り上がり組がほとんどの様で、すでにいくらかのグループが出来ている。
 彼らは誰ひとりとして、凉に話しかけようとする素振りを見せない。
 気のせいに決まっているのだろうが、どうも遠巻きに見ているような気がしてならないのである。
 かつて、凉のクラスに入ってきた時のような感じを思い出されて、席に着いた早々恐怖で動けなくなってしまった。
 美咲の後からも、幾人かが席に着く気配がする。
 そんな彼らは早速、声を掛け合っているようだ。お互いに自己紹介している声も聞こえてきた。
 美咲だって、初めて会うクラスメイト達に声をかけたいと思うのに、なぜだかそれが出来ない。
 机を見つめた姿勢のままで、固まっていた美咲に、
「・・・君。ひょっとして、河田凉?」
 と、声をかけてきた男子生徒がいたのだ。
 ハッとなって顔をあげると、いつのまにか席に着いていたらしい。
 美咲からみて、左隣りにすわっていた生徒だった。
「そうだけど・・・。」
 いきなりフルネームで呼びかけれて、戸惑い半分、うれしさ半分。答える美咲に
「俺。篠山昇(ささやま のぼる)よろしくね。」
 答えて手を出してくる掌はふっくらしていて柔らかそうだ。
 彼の全身も、どこを触ってもプニョプニョしてそうな体形だった。
 そんなに太っている体形ではないのに、柔らかそうな肉付きを見た時、美咲は条件抜きでうれしくなった。
 男性は、みんな筋肉質なわけじゃなかったのだ。
 自分と同類を見つけたように思って感動してしまう。
 彼の瞳も嫌味がなかった。眼鏡の奥から見える小さな瞳は、キラキラ輝いて、無邪気な少年のようだった。
「河田凉(かわだ りょう)です。こちらこそよろしくです。」
 言いながら彼の掌の握ると、はたして想像どおりだった。
 柔らかな感触に、美咲は思いっきり満足したのだった。
 竹林に続き、この高校での友人運は、結構よさそうだ。
 そう感じた時に、開いたままの教室の入口に、竹林が姿を表わして。続いて背の高い青木も教室に入ってくる。
 その時はもう、ほとんど生徒達は揃っていたからだろうか。
 彼らが部屋に入ってくると、なぜだか周囲のクラスメイト達の視線がいっせいに、二人に向かうのだ。
 青木は彼らの視線を受け流すのだが、一方の竹林は顎を引き、堂々とした姿勢で彼らを見返した。
 竹林の瞬きしない、濡れた大きな瞳は強かった。
 その瞳を見てると、なぜだか心の中の何かがザワザワしてくる。
「お前ら!入学式からバックレやがって・・・来るの、遅すぎるぞ。」



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