●13話

 ・・第一章・・



竹林の質問の意図が、見えないらしい。不思議そうに首をかしげながらも、さっきの事を思い出すかのように、視線をあらぬ方に投げかける。
考えながら、恐怖の感情はどうにか収まってきたらしい。
表情に血の気が戻る。
「どんな子だったて・・。雰囲気はあのままだって・・・可愛い子だよ。
 なんて言ったらいいかなあ。」
 言いながら、見えない世界をどう表現したらいいか難しいらしい。頭をポリポリ掻いて
「俺には、男の体の上を、同じ年頃の別の女の子の映像がだぶって見える。
 女の子が手を動かすと、男も手が動く。女の子が何か言いたげに口を開けると、男の口から言葉が飛び出す・・・。」
「そうかあ。だからなのかあぁ」
 突然、涙を流さんばかりに飛び上がって喜びだす竹林に、青木はアングリを口を開けた。
「俺、勘違い野郎じゃなかったんだあ。」
 青木の霊視にしがみついた形になった竹林は、ひとまず安心の吐息を吐いてつぶやいた。
 見た目は男であるという問題があい変わらす残っていたが、だとしても、本当は女の子だったんだ。
 そんな竹林を見つめていた青木は、何かを思い当ったらしい。恐ろしい者を見るかのように青ざめ出した。
「竹林・・・お前ひょっとして、あの男を気に入ってしまったのか?
 やめておけ、あの子、絶対何かあるぞ。」
「霊に対して偏見のないお前が言うか?確かに、おかしな状態だろうよ。
 ・・けれど、お前も河田と話してみるといい。悪い奴じゃないって。
 逆に、俺が妙な事になっていないってのが分ってホッとしたよ。
 ありがとう青木。」
 歓喜の表情そのままに、握手して礼を言う竹林に、青木は
「そんな問題じゃなくって・・。」
 と、つぶやく声が小さくなってゆく。
 青木のおかげか、そのせいだか。
 竹林の中ではすでに、霊に対してそれほど悪い先入観をもっていない。
 ほとんどの霊は悪さをするものではなく、タチの悪いのは一握りであるのを、知ってしまっているのだ。
 青木自身、幾人かの身内を見送り、母親までを亡くした経験があって、霊視が出来るこの能力を、その時ばかりは感謝する事ができた経験を持っていた。
 彼らは、自分たちと変わらず存在している。棲む場所が違ってしまっただけで・・・。
 ただ、とんでもなく悪い霊に遭遇してからは、青木はこんな能力は、失くしてしまったほうがいいと、判断したのも事実だった。
「あの子は俺が今まで見てきたのと、訳が違うんだよ。得体がしれないんだ。
 ・・・触れずに越したほうがいい。」
 青木がどれほど真に迫って言葉をつなげても、有頂天になっている竹林には届かない。




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