●1話
・・序章・・
カウントダウンの数字は、いつも浮かんでいた。
意識を静めると、見えるのだった。
『10』のままで、減ることのない数字は、何を意味しているのかは、わからない・・・。
凉との約束を破り、彼の過去を知ってから、半年がたっていた。
河田邸での暮らしは、美咲を悩ませるものだった。
『綾香とは付き合っていない。』
と、病院で目を覚ました後に、再び耕太郎の口から聞いた美咲だったのだが、結局は彼を信じることができなかった。
付き合っていない割には、綾香は休み時間になると、耕太郎のいるクラスに行って、二人で過ごしていたりするのである。
そんな二人の姿を見るにつけ、暗い思念に身を焦がす自分自身がイヤになった。
男の姿をした自分が、耕太郎に想いを寄せても、叶うはずがないのに諦めきれない。
そうゆう思いがあるからなのだろう。
あげくのはてに、女性の姿をみるだけで、羨ましくて仕方がなくなり、不登校にもなりかけたのだった。
そんな気持ちを抱えて、彼の側にいるのは辛かった。
だから河田邸から逃げるように、とある高校に受験して、見事合格を勝ち取ることができたのだった。
ひと工夫必要だったが・・・。
今年の桜の開花は、心持ち遅いようだ。
ポツポツと花が咲きこぼれている枝ぶりは、まだまだ寂しい。
「やっと、来たわ。」
美咲は、歴史ある学校の校門をくぐった時、勝利の宣言をするような気持ちで、一人ポツリとつぶやいていた。
この段階で、すべてをやり終えた達成感のようを味わってはいけないとは思うものの、この高校に入学できたのだ。
自分を、ちょっとぐらいは褒めても構わないとは思う。
校門をくぐった所に、警備員の詰め所のような所があった。美咲と同じような境遇の学生達が2.3人たむろしている。
ボストンバックを抱えている者や、軽装の者の表情は明るい。
みんな、美咲と同じ新入生なのだろう。
明日が香徳大付属高校の入学式。
美咲は、今日から校内に建てられた寮に入り、そこで生活を送るのである。
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